「1.弁護士は悪い人の味方?」

 

 弁護士ではない人と話していると,「弁護士ってなんで悪い人の味方をするんですか?」と聞かれることがあります。禅問答のようですが,答えは「悪い人だから」です。厳密には「悪いことをしたと疑われている人」であって,「悪いことをした人」ではありません。日本の制度では,有罪判決が出るまでは「無罪推定の原則」が働きますので,有罪判決が出るまでは,「悪いことをした人」ではなく,あくまでも「悪いことをしたと疑われている人」にすぎません。たとえ本人が認めていても,有罪判決が出るまでは無罪が推定されており,犯罪者として取り扱われることはありません。
 味方をするというのも,確かに味方は味方なのですが,厳密には,進んでいく刑事手続において,その援助をしているということです。本当に悪いことをしたのだとして,理由もないのにそれを正当化することはしませんし,被疑者・被告人に何らか特定の考えがあるのだとしても,それに共鳴するわけでもありません。
 例えば,殺すつもりはなかった,相手が先に手を出した,薬の影響で意識が朦朧としていた,逮捕された後に意に反する内容の供述調書が作成されたなど,事件によっては色々な事情があり,それが犯罪の成立や刑事裁判の審理にどのように影響するかを考え,刑法や刑事訴訟法に沿って必要な対応をしなければなりませんが,それは専門家の援助がなければなかなか難しいことです。
 ですから,我々弁護士が弁護人として必要な援助をすることが求められるのであり,一定の重大犯罪については弁護人がいなければ審理ができないとされているのも(刑事訴訟法第289条1項),自分で費用を負担して弁護人を雇うことができない場合には国が弁護人を付けるとされているのもそのためです(刑事訴訟法第36条)。
 当然のことですが,手続において必要な援助をするというだけですので,適切な手続が積み重ねられた結果,適切な証拠に基づいて有罪判決となったとしても,そのこと自体に文句を言うものではありません。
 なんで弁護士って,悪いことをした人のところには駆けつけるのに,被害者の方には駆けつけないのですか,と聞かれることもあります。答えは簡単です。捕まっている人は事務所に来られないからです。事務所に連れてきてもらえたり,電話で話をさせてもらえるならその方が楽でいいに決まっていますが,現在,そのような制度はありませんので,我々の方が行くしかないということです。兵庫県は広く,警察署も県内各所に点在していますが,我々も好き好んで南あわじ警察署や篠山警察署など遠方の警察署に駆けつけたいわけではありません。
 なぜ被害者の方には駆けつけないのか,という点についても,答えは簡単です。被害者の方は自分で弁護士を探して相談に行けるからです。アンビュランス・チェイサー(Ambulance Chaser)という言葉を聞いたことはないでしょうか。アメリカでは救急車(Ambulance)を追いかけて(Chaser)病院に行き,事故に遭った人に自分が訴訟をやってあげると売り込むことがあるようで,そのような弁護士を揶揄する言葉だそうです。
 我々弁護士は,弁護士職務基本規程第10条により,事件の依頼を勧誘することは禁止されていますので,駆けつけたくても駆けつけられないのです。仮に,これが許されるとなれば,事件や事故の報道を見て,自宅などに弁護士が殺到するということが起こりかねませんが,次から次に来られてもとても迷惑だろうと思います。メディア・スクラムと言って,事件現場などにマスコミが殺到することがあり,それを見て皆さんも不愉快に思うことがあると思いますが,我々弁護士はそのようなことは品位を損なうものとして禁じられているのです。ご連絡をいただければいくらでも相談には乗りますが,こちらからはできません。
 このような弁護士の役割や基本的な決まり事については,もっときちんと報道していただきたいと思いますし,皆さんにはきちんとご理解をいただきたいと思っています。
(2024/2/5 弁護士 戸谷嘉秀)
(依頼の勧誘等)
第10条 弁護士は,不当な目的のため,又は品位を損なう方法により,事件の依頼を勧誘し,又は事件を誘発してはならない。

 

 弁護士ではない人と話していると,「弁護士ってなんで悪い人の味方をするんですか?」と聞かれることがあります。禅問答のようですが,答えは「悪い人だから」です。厳密には「悪いことをしたと疑われている人」であって,「悪いことをした人」ではありません。日本の制度では,有罪判決が出るまでは「無罪推定の原則」が働きますので,有罪判決が出るまでは,「悪いことをした人」ではなく,あくまでも「悪いことをしたと疑われている人」にすぎません。たとえ本人が認めていても,有罪判決が出るまでは無罪が推定されており,犯罪者として取り扱われることはありません。
 味方をするというのも,確かに味方は味方なのですが,厳密には,進んでいく刑事手続において,その援助をしているということです。本当に悪いことをしたのだとして,理由もないのにそれを正当化することはしませんし,被疑者・被告人に何らか特定の考えがあるのだとしても,それに共鳴するわけでもありません。
 例えば,殺すつもりはなかった,相手が先に手を出した,薬の影響で意識が朦朧としていた,逮捕された後に意に反する内容の供述調書が作成されたなど,事件によっては色々な事情があり,それが犯罪の成立や刑事裁判の審理にどのように影響するかを考え,刑法や刑事訴訟法に沿って必要な対応をしなければなりませんが,それは専門家の援助がなければなかなか難しいことです。
 ですから,我々弁護士が弁護人として必要な援助をすることが求められるのであり,一定の重大犯罪については弁護人がいなければ審理ができないとされているのも(刑事訴訟法第289条1項),自分で費用を負担して弁護人を雇うことができない場合には国が弁護人を付けるとされているのもそのためです(刑事訴訟法第36条)。
 当然のことですが,手続において必要な援助をするというだけですので,適切な手続が積み重ねられた結果,適切な証拠に基づいて有罪判決となったとしても,そのこと自体に文句を言うものではありません。
 なんで弁護士って,悪いことをした人のところには駆けつけるのに,被害者の方には駆けつけないのですか,と聞かれることもあります。答えは簡単です。捕まっている人は事務所に来られないからです。事務所に連れてきてもらえたり,電話で話をさせてもらえるならその方が楽でいいに決まっていますが,現在,そのような制度はありませんので,我々の方が行くしかないということです。兵庫県は広く,警察署も県内各所に点在していますが,我々も好き好んで南あわじ警察署や篠山警察署など遠方の警察署に駆けつけたいわけではありません。
 なぜ被害者の方には駆けつけないのか,という点についても,答えは簡単です。被害者の方は自分で弁護士を探して相談に行けるからです。アンビュランス・チェイサー(Ambulance Chaser)という言葉を聞いたことはないでしょうか。アメリカでは救急車(Ambulance)を追いかけて(Chaser)病院に行き,事故に遭った人に自分が訴訟をやってあげると売り込むことがあるようで,そのような弁護士を揶揄する言葉だそうです。
 我々弁護士は,弁護士職務基本規程第10条により,事件の依頼を勧誘することは禁止されていますので,駆けつけたくても駆けつけられないのです。仮に,これが許されるとなれば,事件や事故の報道を見て,自宅などに弁護士が殺到するということが起こりかねませんが,次から次に来られてもとても迷惑だろうと思います。メディア・スクラムと言って,事件現場などにマスコミが殺到することがあり,それを見て皆さんも不愉快に思うことがあると思いますが,我々弁護士はそのようなことは品位を損なうものとして禁じられているのです。ご連絡をいただければいくらでも相談には乗りますが,こちらからはできません。
 このような弁護士の役割や基本的な決まり事については,もっときちんと報道していただきたいと思いますし,皆さんにはきちんとご理解をいただきたいと思っています。
(2024/2/5 弁護士 戸谷嘉秀)
(依頼の勧誘等)
第10条 弁護士は,不当な目的のため,又は品位を損なう方法により,事件の依頼を勧誘し,又は事件を誘発してはならない。

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